こんにちは。
僕は関西ローカルの番組を構成する放送作家です。
このブログでは、カメラを持って街をめぐり、人をめぐり、テレビでは表現しえない街の人々のいとなみを綴ってゆこうと思います。
いつも頭のなかは「旅がしたい」という想いでいっぱいです。
先日、ふらりとジャズ喫茶を訪ねました。
マスターが笑顔で「やあ、5年前にも来てくれたよね」と声をかけてくれました。
すごい記憶力!
ちなみに、その店へ行ったのは初めてでした。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
街めぐり超風景 Showcase 007
鯉かな? 鯉じゃない!
広島カープとサメを愛する店(兵庫・神戸)
■V3 CARP 菊池貴弘さん
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
店の中があちこち赤いこの店はいったい……。
今回、訪れた場所は兵庫県神戸市長田区の「新長田」駅周辺。
改札を出て南側には長大な商店街もあり、とても住みやすそう。
暑い日だったから、駅前バスターミナル広場にある噴水で子供たちが盛大に水浴び。
そして新長田は関西人なら決して忘れてはならない地名・駅名でもある。
それは新長田が、1995年1月17日に発生した阪神淡路大震災で、もっとも大きな被害に見舞われた場所だから。
そんな新長田で復興にたちあがったヒーローが「鉄人28号」。
「新長田」駅南側にある若松公園にずしんと重量感をもって立つ、本当に鋼鉄でできた巨大な「鉄人28号」。
この「鉄人28号」像は2009年10月、新長田の震災復興と地域活性化のシンボルとして設置された。
横山光輝原作作品が選ばれたのは、氏が長田で生まれたからだという(出身地は神戸市須磨区)。
このごろ巨大なガンダムやパトレイバーなどジャパニメーションロボットで町おこしをはかる自治体が増えたが、彼ははしりであり、そのずっしりっぷりと「マンガ感!」は他の追従を許さぬ貫禄がある。
置かれているというより、自分で歩いてきたかのような活き活きとしたフォルム。
なんせ総重量は50トン!
高さは原寸大の15メートル30センチ。直立時設定はビル5階建てに相当する18メートル。
頼もしい。
見あげれば、誰もが正太郎少年のようにリモコンのジョイスティックを動かしたくなるほど気分が真っ赤に高揚する。
高揚したらお腹が空いてきた。
ご当地グルメの「ぼっかけ」(牛すじとこんにゃくの煮込み)でもいただこうかと「新長田」駅から南東方向へ5分ほどうろうろ歩くと、辿り着いたのが「西神戸センター街」。
この商店街のアーケードを抜けると、強く目を引くのが赤く染め抜かれた幟。空を泳げとばかりにはためく赤だ。
「なんの店だろ?」と思い近づいてみると、どうやら広島カープのファンがやっている飲食店らしい。
店の名は「V3 CARP」。
遠目にも異彩を放つ「赤」。
外観からすでにカープ愛がほとばしっている。
店内では野球中継が。
神戸でありながらあくまでメインは広島という命知らず。
兵庫県で広島カープの応援をする店。
これがどれほど意外で、どれほど度胸ある光景かを関西以外に方にわかってもらうのは難しいかもしれない。
いくら昨今「カープ女子」がブームとはいえ、関西はやはり阪神タイガースのお膝元。カープファンを謳う全国のショップが一覧になったウエブサイトがあるのだが(あるんです。そういうのが)、検索をかけても兵庫県でそれをする飲食店はこの「V3 CARP」以外やはり一軒もなかった。
以前、僕は大阪で「ジャイアンツファンの回転寿司屋」を取材したことがある。
店内は原辰徳のサインボールなど巨人軍グッズ満載なのだが、表の看板にはそれらしいことはひとつも書かれていない。理由は「タイガースファンから看板を壊されるから」。
ひどい酔漢もいるもんですねと感想を述べると、「いえ、壊すやつらはぜんぜん酒に酔っていない」とのこと。
しらふの暴漢に襲われるこの地で、関西以外の他球団を応援するのは命がけ。ここはそういうセ界。
この店はおそらく神戸で唯一の広島カープを応援するスポットだ。
もうひとつ目を奪われたのが、表に貼りだされた「わに料理」のメニュー。
部屋とYシャツと……ではなく「わにとカレーと広島」。
わに?
わにって、あのワニ?
ワニを食べていた野球選手といえば昔ヤクルトにいたラリー・パリッシュがおなじみだが、広島でもワニを食べるのか。
よくよく目を凝らせば、広島県北ではサメのことをそう呼ぶらしい。
いや、だからって!
そもそも広島でサメを食べる習慣があるのかすらまず知らないし。
広島なんだから牡蠣かお好み焼き、カープなんだから鯉料理でしかるべしでは?
(*現在は牡蠣のメニューもある)
広島県北ではサメを「わに」と呼ぶらしい。
それはわかったけど、そもそも広島とサメの関係がわからない。
わけがわからなくなった僕はワニワニパニックになりながら、栄光の旗、ならぬ赤い暖簾をくぐってみた。
店内は、嗚呼やはりカープカラー一色。
カウンターだけの小さな店なのにカープミュージアムの様相を呈した充実度。
関連書籍もズラリ。
神戸にいながらにしてデイリースポーツではなく中國新聞が読めるという異空間。
言わずもがな「カープびいき」の店だ。
関西には頒布されていない奥田民生のポスターも。
カウンター形式の小作りなお店だが、「究極の無個性」と呼ばれるほどに余分な動きを削ぎ落したスマートフォームで崇拝される伝説のバッター前田智徳のユニフォームや、「神の捕殺」とあがめられる華麗なファインプレーの数々で観客を魅了してきた菊池涼介のポスター、メジャーからの20億円以上の巨額オファーを蹴って復帰した“男気・黒田”(博樹)グッズなどなど、ぎゅうぎゅうにカープ尽くし。
熱気が伝わってくる。ご主人はそうとうな“鯉キチ”とお見受けした。
店主は菊池貴弘さん(42歳)。
ここ「V3 CARP」は不定休で営まれるカレーライスと定食のスタンド。
2015年の5月にオープンしたというから、まだ一年経ったばかりの飲食店のルーキーだ。
真っ赤ないでたちの、マスターシェフ菊池貴弘さん。
店内は広島カープのみならず県産のみやげも豊富に取り揃えているが、ご出身はやはり広島なのだろうか?
え? どういうことですか?
「幼い頃から阪急ブレーブスが好きで、福本(豊)や山田(久志)がヒーローでね。阪急子供会にも入っていました。球場といえば甲子園より西宮球場のほうが思い入れがあります」
「阪神タイガースですか? ひねくれていたわけではないんですが、子供ごころにセ・リーグよりパ・リーグのほうが大人っぽくてかっこいいなと思っていました。だから広島の『赤ヘル旋風』『江夏の21球』も、ミスター赤ヘル・山本浩二の活躍も、幼かったこともあって、あんまりよく憶えていないんですよ」
意外だった。
菊池さんは新長田と同じ神戸市生まれの地元っ子で、もともとは在阪パ球団のファンだったのか。
ならばなぜ、パからセへ。そして他府県の球団に惹かれるようになったのだろう。
阪急ブレーブスのラストイヤーとなった1988年は、奇しくも菊池さんが幼少期に憧れたヒーロー山田久志と福本豊が現役を引退した年でもある。
こうして菊池さんのパ愛は閉幕した。
ではなぜ野球熱が再燃し、広島カープを応援するようになったのか。
強いから、ではなく「弱いから」夢中になったという菊池さん。
名物メニューである「わに」も、カープの試合を観戦するために広島を訪れた際に出会った、宣伝力の弱い食材だった。
まぐろより上品な味だと感じた「 わに(サメ)の刺身」。
箸置きもサメ。
菊池さんが「身体が温まる最強の調味料」と絶賛するピリ辛の「神楽味噌(かぐらみそ)」。
これもまた広島の“知られざる名物”だ。
やわらかなのに弾力がある白身肉のおいしさにびっくり!
世の中のシーフードカレーはもう「わに(サメ)」を入れることを定番化してよいのでは。
「よく『サメの肉はアンモニア臭がする』と聞くでしょう? でも実際に食べてみてください。まったく匂わないですよね。でもこんなにおいしいのに需要がないからって、地元で消費する以外は捨てていると聞いて、それはあまりにももったいないと。だからサメだって広島の味覚なんだと知ってもらいたくて、わに(サメ)料理の店を始めたんです」
「カープだから鯉じゃないのかって? 鯉はアシが早いんで怖くて扱えませんよ」
アシが早くて怖いとは、まるで赤ヘル機動力野球の申し子、高橋慶彦のよう。
菊池さんは、実力はAクラスながら知名度が低い食材で、あえて勝負に出たのだ。
サメのスープ定食には選手の名前が冠されている。
勝負に出たといえば、そもそも新長田にカープの店を出すこと自体がきわめて危険球である。
広島カープの魅力は、強い選手を札束で獲得するのではなく2軍で育てた選手が1軍に這いあがってくる不屈の精神にあると言われている。まるで鯉の滝のぼりのように。大きな震災に遭い、「全員野球」と呼ぶべき不屈の精神で再び起ちあがった手工芸の街・新長田の人々にとって、広島カープもまた、阪神タイガースとともにシンパシーをいだく球団なのだろう。
おいしいサメ料理と広島愛でいっぱいなお店の雰囲気が地元に愛され、カープ親子たちの憩いの場となっている。
そういえば新長田のシンボルといえば駅前にそびえる鉄人28号像。
鉄人といえば2215連続試合出場記録をもつ名スラッガー、衣笠祥雄だ。
はじめは「なぜタイガース圏で広島カープ?」と思ったが、新長田に広島カープを愛する店があるのも、だんだん必然のような気がしてきた。
ガオー!
お店を出ると、もうあたりは暗くなっていた。
新長田名物といえば「ぼっかけ」だが、さらにそこに「わに」(サメ)が並ぶBW砲が火を噴く時代が来るかもしれない。
そんな日が訪れることを想像しながら、僕はこの街をあとにした。
V3 CARP
兵庫県神戸市長田区久保町3丁目-9-5 サニーコーポ 1F
電話:078-754-5895
営業日時は日々変動。
Facebookでご確認のほどを。
FB: https://www.facebook.com/V3-CARP-382890645231390/
取材・撮影:吉村智樹(よしむら・ともき)
京都在住の放送作家。
すごい手仕事作家や職人さんを取材した姉妹サイト
「ものづくりの人に会いたい」もよろしくおねがいします。
▼こちら
http://yoshimuratomoki.com/monodukuri/
僕に街情報や人物取材の記事を書かせていただけるニュースサイトやポータルサイトはございませんか。
取材アポ、撮影など、段取りはこちらですべてさせていただきます。
お気軽にお声をかけくださいませ。
どうぞよろしくお願いいたします。
▼メールフォーム
http://tomokiy.com/postmail.html