こんにちは。
僕は関西ローカルの番組を構成する放送作家です。
このブログでは、カメラを持って街をめぐり、人をめぐり、テレビでは表現しえない街の人々のいとなみを綴ってゆこうと思います。
いつも頭のなかは「旅がしたい」という想いでいっぱいです。
そしてもしも自分がいま美大生なら、学校中の生徒の爪を切って集め、オブジェを作りたい。
そういう「ネイルアート」がやりたいです。
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街めぐり超風景 Showcase 008
珍スポトラベラー金原みわさんがいざなう
夢の「絶対あかんやつ」ランド
■珍スポトラベラー 金原みわさん
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珍スポトラベラー」として名を馳せる金原みわさん。
彼女が火をつけたブーム「絶対あかんやつ」とは、いったいなに?
*以下、この項で使用する「絶対あかんやつ」はすべて金原みわさん撮影・収集によるものです。
「絶対あかんやつ」。
近年この言葉をネットサーフィンのさなかに目にしたり、巷で交わされる日常会話のなかで耳にしたことがある方はきっと多いだろう。
2015年度の流行語大賞の選にこそ漏れはしたが、静かながら確実に、じわじわ日本中に拡散している新しいキャッチフレーズだ。
少なくともノミネートされた「存立危機事態」や「フレネミー」などよりはるかにユーザーが多いリアルな流行語である。
新しい、と云っても「絶対」も「あかんやつ」も特段に珍しい言葉ではない。
ところがこの耳馴れた他愛もないワードがバロムクロスすると、なぜかそこにはまばゆい光に包まれた謎の“あるもの”たちが現れる。
それは……。
それは……どこかで見たことがある気がするけれど、でもなにか大事なものが大きく欠落した(あるいは過剰に盛られすぎた)、見た人が誰しも思わず「あかん!」と叫んでしまう、いわく言い難いキャラクターたちだ。
たとえば、↓
まさかこれ、ガン……ダ……。
まさかこれ、初音……ミ……。
あ、あかん!
このように「絶対あかんやつ」は、誰しも幾度となく街角で目にしているだろう。
そしてそのたびに、ざわざわと胸騒ぎをおぼえるはずだ。
まずはGoogleで「絶対あかんやつ」で画像検索をしてみてほしい。
そこには、ミッキーマウ……のようなネズミ、ドラえも……らしき青い球体、キティちゃ……に似た奇形ちゃん、ピカチュ……的な黄色い化け(以下略)などなど、ちびっこたちの人気者をモデルに描いたと思わしきキャラクターが、うようよとうごめいている。
そして街へ出てみると、ほら、あなたの背後にも立ち、じっとこちらを見ているではないか。
あ、あかん!
このように、三次元の裂け目から這い出てきた四次元の生き物たちに、あなたもきっと出会っているはず。
「なるほど、“絶対あかんやつ”って、要するに有名キャラのパクリのことなのね」。
その感想は半分は当たっていて、半分は的を射ていない。
そもそも単なる模倣やトレース、二次使用では、ここまで“愛され”はしない。
また、昨今おそ松さんでやっているような意図されたパロディとも大きく異なる。
「絶対あかんやつ」の魅力をひとことで言うならば、愛らしい「つたなさ」にある。
絶対あかんやつの多くの作者は、ご年配である場合が多く、さらにそのほとんどが画業に携わる人ではない。アマチュアながら孫と同じ世代の子供たちに喜んでもらおうと、自分の店の壁やシャッターに描いたのがはじめであり、微塵の悪意もない。
ただ……おぼろげな記憶をもとに描いているからなのか、はたまたデッサイン力がえぐりとられているのか、そこに描きだされたキャラクターは、どう好意的にウオッチしてもジバニャンには見えない溶解した猫など、豪快なまでに似ていない。
そして天然のデフォルメによって、それ自体が別のキャラクターと呼べるほどのオリジナリティがほとばしり、魂を宿し、得体のしれないカリスマ性すらをまといはじめる。
そうしてこれらストリートに息づく素朴なタッチのキャラクターたちの愛らしさにヤラレた路上観察者たちが近年こぞって写真におさめだし、ネット上に投稿するようになり、「ここにも」「あそこにも」と白熱しているというのが現状だ。
「あ、絶対あかんやつや!」と思ってWAKUWAKUしながら近寄ってみるとオフィシャルだったのでガッカリ、「なんだ本物か、ちぇッ」なんて経験談すら耳にするほどに。
このように「絶対あかんやつ」は稚拙ゆえに温かさと人懐っこさを感じさせる、言わば現代の大津絵であり、描き手は二十一世紀の円空と呼んで絶対に過言ではないのだ(あ、すみません。やっぱり言い過ぎでした)。
猛威ともいえるブームを巻き起こすこの「絶対あかんやつ」。
これを命名し、発掘につとめ、ネットへの投稿をいち早く始めたのが“珍スポトラベラー”こと大阪在住の金原みわさん(29歳)。
先ごろ会社に突きつけた「退職願」をTwitterにアップしてネット民を震撼させた人でもある。
珍スポトラベラーこと金原みわさん。
金原みわさん。
路上観察を生き甲斐とする者なら、このお方の尊名を知らぬはずはない。
それほどの、ストリートカルチャー全般から崇拝される、その界隈の女王だ。
それまで「B級スポット」と呼ばれることが多かった奇妙な施設を「級(クラス)」で分けるのではなく、すべてを珍重の珍でリスペクトした「珍スポ」の呼び名で総括し、金原さんの出現以降「珍スポ」は一般名詞化した。
そして珍スポを追うためなら荒くれた労務者の街への潜入や、険しい山道も車中泊も野宿もいとわず、日本はもとより海外をも駆け巡り、数多のニュースサイトで取材成果を発表。
またストリップ劇場とヌードダンサーに造詣が深く、全国ならびに世界の性器崇拝の寺社仏閣を旅しており、関西のタウン情報誌『Meets Regional』にて”男根紀行”を連載している(ぜひ同じ版元の女性誌『SAVVY』でもお願いしたい)。
さらにこの5月には遂に! 遠くにあるようで日常のすぐそばにある「さいはて」を巡った旅の紀行エッセイ集を発売する。
その名も『さいはて紀行』。
5月10日(火)発売。かの都築響一氏も絶賛する待望の処女作。
紀行エッセイ集『さいはて紀行』(シカク出版 1000円+税)を上梓。
▼詳細
http://uguilab.com/publish/2016saihate/
ほかにもさまざまなジャンルの路上のスナイパーたちが集う『別世界bar』や、ゲームミートや昆虫など気色の悪いものを食べまくる『奇食ナイト』を共催するなどなど暗黒世界で八面六臂の大活躍。
なにより”キャラクターのさいはて”とも言える「絶対あかんやつ」のオリジネーターであり、もうこの人を素通りするなんて絶対あかんという、時の人なのである。
退職願を提出したことでこのたび名誉夢職となり、足かせがはずれた金原みわさんがこれからどんな暴れ方をするのか楽しみであり怖くもあるが、今回は彼女のさまざまなフィールドワークのなかから「絶対あかんやつ」になぜ着目したのかに絞ってお話をうかがってみた。
なるほど。「絶対あかんやつ」という絶妙に的確なネーミングは「タグ付け」に端を発していたのか。
そしてこの急所を貫くほど#(シャープ)な名が冠されたタグは、うなりをあげて一気に拡散することとなり、次第に「発見したら金原さんに報告する」というシステムが自然とできあがっていった。
それは、金原さんが「絶対あかんやつ」という概念を明確にした初めての人だからだろう。
路上観察の世界には、新しい言葉の発明がエポックとなって、そこから発掘や採集のムーブメントが生まれることがひじょうに多い。
赤瀬川原平氏らが提唱した「トマソン」を代表に、「電波系」「ゴミ屋敷」「秘境駅」「オジギビト」「ばかけんちく」「酷道」「顔ハメ」「いやげもの」「ムカ絵馬」「ピクトさん」「飛び出し坊や」などなど、それまで街のほうぼうに点々とあった名もなき光景が、ある造語によって聚合し、路上観察のひとつの太いジャンルに昇華した例が多々あるのだ。
「絶対あかんやつ」も、街に急に現れたわけではない。ずっとむかしから商店街の片隅で色褪せつつ哀しい笑顔を振りまいていた。
しかしそれらには、名前がなかった。
永いあいだ「パチもん」と呼ばれることが多かったが、これはチープな偽物をさすフランクで雑把な総称でしかなく、絶対あかんやつのキモである「積載オーバーなまでの欠落感」を言い表せてはいなかった。
愛……。
その曖昧なシーンに対し、金原さんが「絶対!」「あかん!」「やつ!」とトリプルスリーの強いダメ押しをしたことで、絶対あかんやつらに内在していたフォースが覚醒し、よーわからんけどなんや感動してしまう神聖さが浮かびあがったのである。
学名がないまま放置されていた生き物に、ジャストな名前がつき、全国の歩行者たちは「それだ!」と膝を打った。
もやもやが晴れ、地上に光が差し注いだ。
絶対あかんやつらは、そうしてアートの神に召されていったのだ。
では、金原さんは、いったいなにを「あかん」と思ったのだろう。
美女の口から「いいという意味で『あかん』と言うことって、あるでしょう?」と言われ見つめられると、まだ枯れきれていない初老のおっさんはドキマギを禁じ得ないのだが、それは置いておいて、これはよくわかる。「絶対あかんやつ」の「あかん」は、「(味わい深すぎて)もうあかーん」の「あかん」であり、路傍の芸術に対する称賛を意味するのだ。
そうして命名者であり、路上観察界にトマソンに比肩しうる金字塔を打ちたてた金原さんは、自らも街に埋もれし絶対あかん名画のサルベージに驀進することとなる。
それにしても、珍スポットと違って住所が定かではない絶対あかんやつを、いったいどうやって見つけるのだろう。
そ、そこまでして……。
これまでいったいどれほどの量を撮り集めたのだろうか。
金原さんが大阪から愛媛県までわざわざ撮影しに行った愛媛ルパンたち。
彼らは金原さんの心を盗んでいったようだ。
タイのドラえもん寺、ワット・サンパシウ。
バンコクから100キロも離れた郊外にあり、タクシーでぼったくり被害に遭いながらも撮影に出向いた。
絶対あかんやつに会うために海を渡り、ときにお金をぼられる金原さん。
それでも抑えきれないあかん好奇心が彼女を絶対あかんジャーニーへといざなう。
珍しい例としてルパンが挙げられたが、コレクションのなかにはプロゴルファー猿らしき男子を描いたツワモノもおり、絶対あかんやつらにも深海と浅瀬があるようだ。
チョイスがシブい! ワイはそう思う。
特に印象深い名作は?
うわぁ……。
鬼が太鼓で盛りあげる「工芸の里かっぱ村」のセメント造形作品群。
特に明け方に見る夢に出てきそうなネズミの紳士はアウトサイダーアートとして正当に評価すべき逸品。
どこへ案内するつもりだ……。
カレーが小さいのか、めがねネズミがでかいのか。
こうしておよそ4年のあいだに撮り集めた800か所(!)に及ぶ膨大なあかんやつらは、さらに約100点に選り分けられ、2015年4月に大阪「FOLK old book store」にて「桜色の夢の国」の名で写真展が開催された。
有名キャラクター、のような気がするインディペンデントなキャラクターたちだけを集めた街の写真展は、僕の知る限り、本邦初の快挙だ。
2015年4月に開催した金原さんの絶対あかんやつ写真展「桜色の夢の国」。
では、金原さんにとって絶対あかんやつの魅力とは?
愛媛の「りんりんパーク―」に立つ、絶妙にバランスがおかしい顔ハメ。
超えてゆく感覚。
絶対あかんやつらを前にして、ひずんだギターサウンドのように、サイケな超越感をおぼえるのは、金原さんだけでも、僕だけでもないはず。
くらっとくるその向こう側に桜色の夢の国が広がり、日米英、そして世界中のあかんキャラクターたちが絶対あかんランドで楽しく遊んでいる。
それを幸福と呼んで、なにがいけないのだろう。
本物のキャラクターたちは、大人の都合で一枚の絵に収まることすらできない。
絶対あかんやつらだからこそ、しがらみの壁を乗り越え、手をとりあって夢のパークーへと辿り着くことができるのだ。
正直、こういうキワキワな表現ゆえ、街から消えてなくなるスピードも猛烈。
路上観察の世界ではとりわけアシの速い、はかないジャンルである。
だからこそみわさんは「撮らなければいけない」と語る。
彼らが「本当にあかん」かどうかは、それを判断する仕事の人たちに任せよう。
私たちはしばし、絶対あかんやつらの、ひと夜の似非クトリカルパレードに酔おうではないか。
▼金原みわさんの珍スポット探訪ブログ「TiN.」
そして今回紹介させていただいた珍スポトラベラー金原みわさんがめでたく三十路へと突入。
これを記念したイベントが5月9日(月)大阪ロフトプラスワンウエストにて開催される。
金原さんの「さいはて」ジャーニーの集大成となるイベントへ、ぜひ駆けつけられたし。
「金原みわ生誕祭 30周年記念」
2016年5月9日 /大阪ロフトプラスワンウエスト
OPEN 18:30 / START 19:30
料金:前売¥1,900 / 当日¥2,200(共に1オーダー必須¥500以上)
▼出演者情報やイベント内容、前売購入方法など詳細はこちら。
取材・撮影:吉村智樹(よしむら・ともき)
京都在住の放送作家。
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