作家さんや職人さんの手から生まれた一点ものに触れること、それはなにものにも換えがたいラグジュアリーな経験ではないでしょうか。
街を歩いていると思いがけず、驚きの手仕事、衝撃のアートに出くわすことがあります。
予備知識なしで飛びこんだギャラリー、雑貨店の片隅、小さなアトリエ、手作り市での露店の並び、そんな街のはずれで出会った神々によるオンリーワンな作品を紹介します。

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2014.01.07

ものづくり超偉人001 芸術的なお弁当を作り続けるデザイナー(京都)

会社や学校へ、手作りのお弁当を持って行かれる方はきっと多いでしょう。

 

手作りのお弁当といえば、普通は、

 

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こういう感じですよね。

 

 

ところが、この方が毎朝作るお弁当は、とても大胆なレイアウト。

 

たとえば、どーんと、

 

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カニが一匹乗っているのみ!

 

これぞ「クラブ世代のお弁当」。

格納が考え抜かれたスパイの秘密兵器のよう。

弁当箱のふたが閉まらず、難儀したそうです。

 

ほかには、いったいどんなお弁当があるのでしょう。

 

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Showcase 001

芸術的なお弁当を作り続けるデザイナー(京都)

 

■梅田啓介さん

 

 

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お弁当を詰めるとき、誰しも色彩やおかずの位置に少しは気を配るでしょう。

 

ほんのささいなことだけど、それって、デザインであり、表現ですよね。

 

つまり、お弁当箱は携帯可能なギャラリーであり、お弁当は食べられるアート。

 

この方が毎朝作るお弁当を見て、ふとそんなことを考えました。

 

 

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Facebookには”シェア”という機能があり、それを使うとテキストや画像が広く拡散されてゆく。

友人の友人、そのまた友人の友人たち、はるか遠くの見知らぬ島に住民たちから、空き瓶に入った手紙のように、インターネットという海を越え、さまざまな情報や表現がこちらの岸に流れ着く。

 

なかには、ハッとさせられる、新鮮な驚きが“詰め込まれた”作品に出会えることもある。

Facebook経由で知った梅田啓介さんの「おべんとう」はまさに、そんな仰天に満ちたサプライジングプレゼントだった。

 

京都にあるゲーム会社におつとめのデザイナー梅田啓介さん(31歳)が、自作のお弁当を撮影しFacebookにアップし始めたのは、およそ1年6ヶ月前。

以来、会社の同僚、Facebookの友人(フォロワー)たちのみならず、見ず知らずの通りすがりだったネットユーザーにさえ日々の新作アップを心待ちにされるようになった。

 

お弁当の画像をブログやSNSにアップする人は多い。

 

いかにしてアニメやゲームのキャラなどを食材で表現できるかに挑戦した「キャラ弁」。

 

そこにロリ・ショタ趣味が強調された「痛弁」。

 

ネイル感覚でキラキラしく多幸感を演出した「デコ弁」。

 

子供や旦那が食欲をなくすほどの写実・模写力を発揮した「虐待弁当」などなど。

 

なかには、ロックの名盤をおかずで描き表した「ジャケ弁」なんていうシヴいジャンルもある成熟ぶりだ。

 

そしてそれぞれの世界にカリスマが存在し、今日もちまたの目を楽しませ、空腹をバーチャルで満たしてくれている。

 

お弁当でアド弁チャーな世界を表現すること、これはインターネットが生んだ新しい食文化と言っても大げさではない。

 

しかし……。

 

梅田啓介さんが作るお弁当は、前述のどのジャンルにも汲みいらない、孤高の世界。

まずは、そのストレンジな作品の数々をご鑑賞いただきたい。

 

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タコの足と梅干しだけ。なのにスペクタクルなうねりを感じる「DXタコちゃんべんとう」

 

  

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レオ・レオニの名作絵本「スイミー」を思わせる「ちりめんじゃこべんとう」 

 

 

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ハムだけ。なのに官能的な気分にさせられる「生々しいべんとう」

 

 

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目にも鮮やかな「プチトマトべんとう」

トマトの下にはチーズ、バジルが敷いてあり、思い切りイタリア~ン。

 

 

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サンマのかっこうよさに魅せられて作ったという「サンマたちの横顔べんとう」

 

そして翌日は当然、↓ ↓

  

 

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「サンマたちのおしりべんとう」に

 

 

巷のお弁当凝り性たちの多くが「モチーフをどう食材で表現するか」にチャレンジする、言わば足し算の人たち。

 

対して梅田啓介さんが作るお弁当は、静物画のように食材の魅力をストレートに、ストイックに伝える、シンプルな、引き算の世界だ。

ここちよい、凛としていて、いさぎよい、盛らない、枯淡のお弁当。

お弁当を見て「涼しい」と感じたのは初めてだった。

 

技巧者たちの熾烈な争いが巻き起こるお弁当シーンに突如現れた幽玄派の作者、梅田啓介さんって、いったいどんな人なんだろう。

僕はがぜん興味が湧いた。

 

そして、京都・茶山のギャラリー・ダイニング「Prinz」で、お弁当の写真展「梅田啓介 100のおべんとう展」が開催されていると聞き、インタビューをさせていただいた。

註*開催・取材は2013年10月でした。

 

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100匹以上がひしめく「タコウインナーべんとう」

 

 

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これぞ、タラコくちびる。

たらこをセクシーにあしらった「クチビルべんとう」

 

 

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関西ローカルメーカー「別寅」のふんわりした丸かまぼこにヒゲ印の焼き印を押した「ひげ印カマボコべんとう」

 

 

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漬物だけで構成された「花咲かべんとう」

梅干しと山椒でおしべ・めしべが表現されている。

 

 

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薄焼きたまごに花びらを散らした、なんとなくはっぴぃえんどな「春待ちべんとう」

 

そして、この方が作者の梅田啓介さん(31歳)。

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ダリや大泉滉をほうふつとさせる立派なひげをたくわえた梅田啓介さんは京都在住。

大手ゲーム会社におつとめのデザイナーだ。

 

三重県出身で、幼い頃は千葉県に住み、ロシアで暮らしていたこともある。

ひげを伸ばし始めたのはインド旅行がきっかけだったという。

ひょうひょうとして、旅人の雰囲気をかもしだしているのは、ひとつところに根をはらない生き方の表れだろうか。

 

お弁当を自作し、会社に持参するようになったのはおよそ1年6か月前。

梅干し弁当を作って、ランチタイムをともにする同僚たちから「いまの時代にそれ?」とツッコんでもらおうと、始めたのだという。

 

そしてこれが思うさまにウケ、翌日から「梅干しを大小2個にする」「梅干しとウインナーソーセージで“!”マークを作る」「梅干しではなく、さくらんぼの日の丸弁当を作ってみる」など、ごはんをキャンバスに見立て、プチ前衛的なアイデアを描いていった。

 

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デビュー作は、ごく普通の(とはいえ現代では稀少な)「日の丸べんとう」

  

 

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セカンドシングルは、2種類の梅干しを左右に配した「うめぼし食べくらべべんとう」

味・種類が違う2種類の梅干しを置く、たったそれだけのことを、梅田さん以外これまで誰もやらなかった。

 

 

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梅干しとウインナーでエクスクラメーションマークを表した「びっくりべんとう」

最小限の具材で驚きの世界を描く梅田さんのおべんとうワールドが、いよいよ花開いた。

  

 

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日の丸べんとうの食材をさくらんぼに。

添え物のデザートが遂に晴れ舞台へとかけのぼった。

 

こうして、ほんの少し定番からずれた梅田さんのシンプルなお弁当を、次第に同僚たちは「今日はどんなのか」と楽しみに待つようになり、期待に応えているうちエスカレート

ふたをあけると不思議としあわせな気持ちになる奇妙な梅田おべんとうワールドが萌芽していった。

 

どのお弁当も、冴えたアイデアと端正なデザインセンスに驚かされる。

ごはんの上におかずが整然と並ぶパネルの数々は、まるでピエト・モンドリアンのコンポジションを思い起こさせ、そして、思わずくすっと笑ってしまう。

ひやごはんにおかずが上品に乗っている、ただそれだけなのに、なぜこんなに笑いがこみあげてくるのだろう。

あたたかなユーモアが胃を刺激し、どんどんおなかがすいてくる。

では、作者である梅田さんにお話をうかがってみよう。

 

 ――これらのお弁当は、いつ作るのですか?

 

だいたい出勤前の30分~1時間を使って作りますが、ものによっては前日夜から煮込んだりして、下ごしらえをします。

 

  ――素材そのものがポーンとあって、置かれた構図で驚かせる。いわゆるキャラ弁とは、発想が正反対ですね。

 

そうですね。

 

素材でなにをするかというより、素材を活かしておもしろくしたいという気持ちがあります。

 

  ――そもそもお弁当を作る習慣はおありだったのですか?

 

 いえ。最初の梅干し弁当を作るまで、自分で作ることはなかったです。

 

ずっと社員食堂のメニューを食べていました。

 

  ――ということは撮影とFacebookへのアップを始めた初日が、お弁当デビューだったんですね。

   

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弁当箱には決まって、出身地・三重県の鰻屋さん「新玉亭」の空きタッパーを使う。

「弁当を作るために弁当箱を買うなんて『浮ついている』という気がしたんです」とのこと。

 

  

 ――梅田さんが作るお弁当の魅力は、おかずの絶妙な配置にあると思いますが、どなたか影響を受けた画家などがいるのでしょうか。

 

誰かの影響は……素材を活かすことを一番に考えるので、あんまりないかもしれないですね。

 

ただ、意識はしないけれど、いままでみてきた絵や映画やいろいろな作品の影響もあるとは思います。

 

また、芸術系の大学受験で魚や花などのモチーフを渡されて絵を描く試験があるので、キレイな構成や素材を活かすことを学びました。

 

そういう経験も現在に通ずるところがあると思います。

 

 ――なるほど。アイデアはどういうときにお考えになるのですか?

 

会社帰りに買い物をするんですが、そのときですね。

 

食料品を見ながら、「これは“枯山水弁当”かな」「これで“間取り弁当”を作ったらおもしろそう」とアイデアを貯めてゆきます。

 

ごくたまに、スケッチブックでレイアウトを考えることもありますね。

 

 ――ということは「その日に食べたいもの」をお弁当にするんじゃないのですね。

 

いえ、「おもしろいだろうな」って思うものを持っていきたくなるので、それがその日の食べたいものなんです。 

 

 ――おもしろいもの=食べたいもの、ですか! それはもう芯からのクリエイターですね。

 

 

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アイデアが浮かぶと、小さなスケッチブックなどに描き留めておく。

 

 

 ――しかし素材が偏っていますから、栄養面が少し心配になります。

 

 栄養のことは僕も心配していて、お弁当を作るようになってから、朝と夜で補えたら補うようにしています。

 

 それと、たとえば100個のお弁当だったら、100個を通して栄養が偏らないようにしています

  

 ――100個のお弁当で栄養を補完! 壮大なドラマを見るようです。ということは、失礼ながら、ちゃんと召しあがっていらっしゃるんですね。カニを丸ごと一匹とか、ほぐすのがたいへんなのに、「これちゃんとお昼に食べ終えられたのかな?」と思ってしまいました。

 

作ったお弁当は必ず残さず食べています。

 

素材の見た目をそこなわないように、味付けは塩味が多いですね。

 

きのこなど、見た目が変わらないようにレンジでチンするだけにとどめて。

 

カニは爪の裏とか食べやすいようにほぐしたり、前もって工夫をしていたので食べるのに支障はなかったです。

 

ごはんにカニの香りが移って、意外とおいしかったんですよ。

  

 ――あと、ナマの七草だけというナチュラルきわまりない作品もありましたが、実際に食べるのはしんどそうですね。

 

春の七草は……しんどかったですね。

 

おいしくなかった。

 

 

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新鮮野菜があまりにも生まれたままの姿で詰め込まれたナチュラルな問題作「七草べんとう」

 

 

ただ七草粥って、どの草を食べているのかわからなくなるじゃないですか。

 

本当に七種類入っているのかさえも。

 

でもあのお弁当だと『いま自分はナズナを食べてる』『セリを噛んでる』と、実感できたのがいいですね。

 

七草を楽しむにはベストな食べ方だったと思います

 

 ――見た目だけではなく、素材そのままの味を感じられるのも梅田さんのお弁当のいいところですね。

 

 

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とはいえ、おかず力にとぼしい具材の場合は、完食のために、かわいいふりかけに援護を依頼することもあるという。

 

 

 ――しかし、なかには素材がプラスチックという作品(コンバットべんとう)もありますね。 

 

あの兵士は一緒に昼食をとるメンバーのひとりにもらったんです。

 

くれたということは『使いなさい』ってことだろうなって(笑)。

  

 

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ブロッコリーが戦火と化した「コンバットべんとう」

このように同僚たちが、おべんとうディスプレー用にパーツを提供してくれることもある。

まさに「さぁ、どう料理する?」といった面持ちで。

 

 

 ――残さず食べるのがポリシーの梅田さんでも、さすがにこの兵士たちは飾りだけですよね。

 

いえ、兵士の形のピックは、食べるときは食器として使ったんです。

 

あれでごはんをすくって

  

 ――素晴らしい。それはすごいパフォーマンスですね。それに、食べきるという点でも筋が通っていて、さすがです。お弁当は毎日、必ずお作りになるのですか?

 

 いえ、どうしても時間がない時は白ごはんだけだったり、パンを買っていったり。

 

そういうときは同僚が待っている社員食堂へ行かない(笑)。

 

仲間も「今日は来てないから、お弁当ができなかったんだ」って、わかってくれるようになりました。

 

  ――それだけ同僚の方も、梅田さんの新作を毎日楽しみにしていらっしゃるんですね。

 

はい。

 

みんな楽しんでくれています。

 

ただ……だんだんみんなの見る目が厳しくなって、難しくなってきました。

 

自分でも「食材が前と同じだなー」「同じ使い方だなー」「おもしろいけど、おいしくないかもなー」と考えるようになって、どんどん難しくなっています。

 

とにかく前と同じものはないように作っていきたいので、今ががんばりどきかなーっと思いますね。 

 

 

前作を超えたい。

同じものは作りたくない。

それは、アーティストそのものの姿勢だ。

いつしか僕は、会社へ持っていくお弁当の話を聞いているという気がしなくなっていた。

 

 

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お手製「おべんとう髪留め」

趣味の造形作品にも、おべんとうLOVEが反映されている。

 

 

 

思えば、お弁当箱は、携帯可能な、小さな小さなギャラリー。

そしてお弁当とは、お母さんが子供に初めて見せてあげるアートなのかも。

ふたを開ければそこには、食べておいしい芸術が詰まっている。

  

自己表現ができなくて、抑圧を感じ、息が詰まる想いで暮らす人々がいる。

しかし生活を見渡し、発想をひねれば、自分を表現できる時間もスペースも、いくらでも見つかるのだと、梅田さんの「おべんとう」は教えてくれる。

 

梅田啓介さんWEBサイト

http://www.k3.dion.ne.jp/~umetin/

 

梅田啓介さん おべんとう生活の記録

https://www.facebook.com/media/set/?set=a.257656444340052.47700.100002870969204&type=1&l=80116f5107

 

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