作家さんや職人さんの手から生まれた一点ものに触れること、それはなにものにも換えがたいラグジュアリーな経験ではないでしょうか。
街を歩いていると思いがけず、驚きの手仕事、衝撃のアートに出くわすことがあります。
予備知識なしで飛びこんだギャラリー、雑貨店の片隅、小さなアトリエ、手作り市での露店の並び、そんな街のはずれで出会った神々によるオンリーワンな作品を紹介します。

総記事数:5 件

2014.01.17

ものづくり超偉人002 本物そっくり! 精巧なミニチュアの椅子を作る家具職人(滋賀)

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手作り椅子のギャラリーへようこそ。

北欧デザインの逸品ぞろいです。

 

ただし、座ることはできません

ご了承ください。

 

 

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Showcase 002

本物そっくり!

精巧なミニチュアの椅子を作る家具職人(滋賀)

 

■家具職人 「浜田工房」浜田由一さん

 

 

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滋賀県の山の奥深くに、世界的に有名なデザイナーの傑作椅子をミニチュア化し続ける職人がいます。

 

それは、気が遠くなるほどの根気と集中力と叡智の結晶。

 

小さな小さな、それでいて広大な、“座れる宇宙”が、そこにありました。

 

人はなぜミニチュアやフィギュアなど小さくしたものに、こころ動かされるのだろう。

 

小さくて大きなその答えは果たして見つかるでしょうか。

 

 

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JR東海道本線「近江長岡」駅を降りた。

 

一瞬「タイの田舎町に来たのか?」と錯覚するエスニックな風景が広がり、

 

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あやしい旅情をかきたてられる。

 

「近江長岡」は滋賀県米原市にある近畿地方の駅だが、管轄はJR東海であり、うかつに電子カードを使って乗車すると、下車の際になかなか面倒なことになる

 

しかしそういったややこしさをいだく県境都市では、どちらの地方の文化風習にも属さない奇特なカルチャーに触れられる場合も多々あり、ひと味違った面白さがあるものだ

 

ここも、まさにそうだった。

 

 

駅を降りて少し歩くと、見えてくるのが、ぽっかりとした稜線が愛らしい伊吹山。

 

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標高1377メートルを誇る滋賀県の最高峰で、スキー、パラグライダー、自転車レースなどスポーツレジャーの人気スポットとして近畿・東海ともに多くの人に愛されている。

 

反面この伊吹山にはいくつかの集落があり、そこには蕎麦を打っていたり、野草を摘んで漢方薬を作ったり、切り絵をしたりと、好んで隔世した人々の静かな営みがある。

 

そして集落のひとつが今回の舞台となる「大清水」。

日本名水百選に数えられた霊水が湧き、迷路のように狭隘な道が入り組んだ山里だ。

 

ここには、ひとりの凄腕の家具職人が工房を構えている。

しかもその工房には作品があまた並んだギャラリースペースがあり、予約をすれば見せてもらうことができる。

 

列しているのは、ほとんどが椅子。

どの家具も北欧伝統の技法とデザイン、美意識を踏襲した、ため息つくほどおしゃれなものばかり。

 

 

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ステキ椅子が並んだ、おしゃれギャラリー、ですよね?

 

 

……と、ファインダー越しに見る限り、よくある展示スペース。

 

しかし。

 

実はここに設置された家具はすべて、名作と呼ばれる家具を1/5サイズに縮小して制作したミニチュア

 

 

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先ほどの椅子は”家ごと”屋内に展示されていた。

 

 

畳敷きの和室の隣こそが、 知る人ぞ知る、山の奥深くに息づく、小さな小さな北欧家具の殿堂だったのだ。

 

これらを作ったのは家具職人、「浜田工房」の浜田由一さん、ただおひとり。

現在62歳、キャリア44年という大ベテランによるハンドメイドだ。

 

 

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「浜田工房」浜田由一さん。

 

 

そしてこのミニチュア家具ギャラリーは自宅の2階にある 

 

ここにある椅子の数?

 

展示会があるたびに増やしているから、今でおよそ130脚かな

 

 この6畳一間に椅子が130脚!

膨大な量のミニチュアに囲まれ、逆に自分の身体が5倍になったかのようなガリバー的錯覚をおぼえる。

 

 

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天井から覗いていると、自分がジャンボマックスになったような気分に。 

 

 

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”部屋越し”に部屋を見渡すと、畳敷きの和室が。ストレンジな家具ギャラリーだ。

 

 

そしてここに並ぶミニチュア家具のすべてには、実は「モデル」がある

たとえばマッキントッシュ(スティーブ・ジョブズの、ではなく、家具デザイナー)の名作椅子もこうしてミニチュアに。

つまりここにあるものは椅子のフィギュアなのだ。

 

 

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インテリア雑誌で見たことがあるチェアの名作の数々が手のひらサイズのフィギュアに。

 

 

それにしても、こわいほど緻密だ。 

 

小さく作るだけが目標でも目的でもないんです。

 

カメラのファインダーを覗いたとき、一瞬、本物かミニチュアなのかわからなくなる

 

そういうものを作らんとあかんのです 

 

 さらに驚くべきは、単に小さいだけではなく、もとの椅子の素材、接合部分の組み方までをもコピーしている点。

素材も材木だけではなく金属や皮革部分までそっくりに手作りしているというから気が遠のく。

  

家具職人って木工作家やと思われがちやけど、家具の素材はそれだけやないから。

 

金属も、革も布も化学物質も、同じように加工できないと家具職人として通用しない。

 

そこまでこだわり抜いたミニチュアの椅子、ほしい! 

 

残念ではあるが、購入はできない

ミニチュア家具作りは「職人としての修業、スキルアップのため」だからだという。

浜田さんは「自分は作家ではない。職人だ」と、何度も口にしていた。 

 

作家は自分が好きなものを作る。

 

職人は依頼されたものならなんでも作る。

 

僕は職人。

 

得意・苦手なく、あらゆる家具を作る必要があったんです。

 

 では、いったいなぜ、浜田さんはミニチュア家具を作り始めたのだろう。

 

浜田さんはそのむかし椅子のデザイン事務所につとめて、プレゼン用に1/5サイズのミニチュアを作り続けた。

7年間の在籍期間で、なんと600脚以上を制作したというから驚異的な速度と物量だ。

 

しかしプレゼンは「企業秘密」。

守秘義務があるため、提示し終えた椅子のミニチュアは、外部の目に触れることなく、たちまち廃棄処分される   

 

 かわいい、というのかな。


自分が作ったミニチュア家具が壊されて、もったいなくてね。 

 

 浜田さんは、魂を込めて作ったミニチュアが廃棄されることに胸を痛め、フリーランスになってから、

 

やるならインテリア業界なら誰でも知ってる、そして尊敬する作家の家具に挑戦したかった。

 

敬愛するデンマークの椅子作家たちの作品をミニチュア化して残したい。

 

 と考えた。

 

それ以来、およそ35年前から、ハンス・Jウェグナーやル・コルビュジエ、チャールズ・イームズなど有名デザイナーズ・チェアのミニチュア化を始める。

 

なにがたいへんかって、図面が残ってないんですよ

 

作り方、設計図なんて出まわってないしね。

 

100%、すべて自分で図面を引きなおして。

 

そうすると工程も見えてくる。

 

この作業は本当に勉強になったね。

  

作業は精神世界へ踏み込むほどの細密な技術と、執念に裏打ちされた集中力を要した。

単に小さくするだけではなく、接合部も正確に、使う素材もできるだけ同じものを。

 

金属も皮革部位も一切外注せずに自らの手でこしらえ、さらに木目まで本物の1/5サイズに近づけようというから、職人魂がマッドな域にまで達している。

 

木目まで似せる。

 

だから、材料もそうとうな量が必要

 

素材も1/5、というわけにはいかないんですよ。

 

 

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親ガメの背中に子亀が乗っているような。

実際に本物と較べてみると、改めて「縮小再現力」の凄さがわかる。

 

 

そうして遂にデンマークへ。

憧れのハンス・Jウェグナーへの表敬訪問を果たし、本人から「パーフェクト」という評価とともに、ミニチュアのオフィシャルな制作者として認定された。

 

以来、現在まで山奥のこの集落で、こつこつ、黙々と家具づくりに勤しんでいる。

 

そんな浜田さんだが、かつては大阪市内で工房を構えていた。

 

大阪は、僕には、にぎやかすぎたんかな。

 

「作業に集中したい」という想いから、この森閑の地へとやってきた。

冬ともなれば雪に閉ざされるこの地に移り住み、10年になる。

 

「田舎暮らしをしたい」という人は多い。

けれど野を選ぶ人と、あえて山を選ぶ人では、人種が違うように思える。

山を選ぶ人は、のどかさより、むしろ自分を鍛える峻厳さを求めるのだろうなと。

 

とても小さなものを作る、とても大きな人に出会った。

 

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それにしても――。

 

思えばなぜ、人々はミニチュアが好きなのだろう。

ミニチュアを作ること、眺めること、集めることに、こんなにもこころ惹かれるのだろうか。

 

僕が小学生の頃、「峠の茶屋」「木曾の旅籠」など、やたらとシッヴいプラモデルばかりを作るクラスメイトがいた。

 

そして高校生になると、家がリッチな女子は皆、マンソン……じゃなくって「シルバニア・ファミリー」の世界にハマっていた。

 

リカちゃんハウス、こえだちゃんの木のおうち、ミクロマンの基地などなど、子供たちは小さな暮らしに自分を投影して遊んでいた。

 

人間にはなぜか生来「インテリアを縮小したい欲」が備わっているようだ。

それは無意識下で行う、本能的な、セルフ箱庭療法なのかもしれない。

 

こころやすまる和室の北欧家具ギャラリーで、僕はそんなことを考えていた。

 

名称● 浜田工房

住所● 滋賀県米原市大清水1143

電話● 0749-58-0902(見学は完全予約制) 

 

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