僕は関西ローカルの番組を構成する放送作家です。
このブログでは、カメラを持って街をめぐり、人をめぐり、テレビでは表現しえない街の人々のいとなみを綴ってゆこうと思います。
いつも頭のなかは「旅がしたい」という想いでいっぱいです。
近況としましては、都築響一さんの週刊メールマガジン「ロードサイダーズ・ウイークリー」の連載『ジワジワ来る関西』にて、大阪にある「野菜でスター・ウオーズを表現するお寿司屋さん」の記事を書きました。
すべて野菜でできております。
楽しい画像も満載ですので、ぜひ読んでみてください。
▼こちら!
http://www.roadsiders.com/backnumbers/?mode=month&id=201606
(週刊ですが、購読を申し込むと、記事はいつでもお読みいただけます)
さて今回は東京の下町です。
ちんちん電車に揺られ、辿り着いたその店は……レトロを通り越して、太古の時代まで連れていってくれました。
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街めぐり超風景 Showcase 011
恐竜がわんさかいるお好み焼屋さん(東京)
■伊藤保さん
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あのう、天井になにかいるんですけど。
路面電車の都電荒川線「熊野前」駅前。
かつて人気番組『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』で「ここに来れば、幸せになれる」と謳われた、あのあたり。
懐かしい「たけし猫まねき」も、ひっそり現存。
ちんちん電車を降り、10分ほど歩くと、そこには、夕映えの街が。
いまどきめったに見ることはない万国旗がたなびく商店街が横たわっていた。
東京にはこういう下町が多く残っているのがいいですよね。
ひたすらZIGZAGにたなびく万国旗。
初めて来たのに懐かしい。
あまりの昭和レトロっぷりに思わず「リアル三丁目の夕日か」とつぶやきたくなること請けあい。
(あとで知ったのですが、ここ、リアルに三丁目なんです)。
商店街を歩いていると、一軒のお好み焼屋さんが。
「お好み焼き110」。お好み焼き警察?
ん? お好み焼き屋の壁になにやら豪快なタッチの絵が。
店の名は、お好み焼110(イトウ)。
「元祖ピザ風お好み焼」のノボリも気になるが、素通りを許さないのが、壁一面に描かれたペンキてんこ盛りな恐竜のイラスト。
こってり濃厚な筆づかい。いかにも皮が硬そうな質感が見事に描かれている。
初めて絵筆を手にした古代人が描いた壁画かのように素朴で強い、プリミティブなパワーが漲っている。
壁画だけではなく、トナカイの首のインテリアのごとく、恐竜の頭部が掲げられている。
それにしても、なんだろう、ここ。
お好み焼きと恐竜、いったいなんの関係が?
ちょうどおなかもすいていたので、店に入ると、そこには……。
おお(息をのむ)。
うわ! 恐竜でいっぱい。
タイムマシンにお願いした憶えもないのに目の前にはジュラ紀の世界が広がり、はるかな化石の時代がサディスティックなまでに迫ってくるではありませんか。
しかも、お座敷部屋に。
たいへんだ。「110」番に電話せねば。
壁には独特な色合いな恐竜の絵。
ひとつひとつの絵を見ると、どれも活き活きとしている。
小賢しいデッサン力など振り払ってしまうほど生命力がみなぎる筆致だ。
そして天井にはーー。
なんかいる!
天井から翼竜が。しかも下がってきた。
翼竜の位置がさっきよりさがっているのがお分かりだろうか。
翼竜は大きな奇声を発しながら高度をさげてくる。
絵画だけではなく首や尾などをかたちづくった造形作品もあちこちに。
まるで恐竜アートギャラリー。
本当にここ、お好み焼き屋さん?
まるで意味がわからないまま、とりあえずなにかおなかにいれようとメニューを見ると、こ、こ、ここにもいましたぞ。
メニューにも恐竜の名前が。
「たこ」「生えび」にはさまって唐突に登場するティラノザウルス。
プテラノドン、エドモントサウルス、ティラノザウルスなど恐竜の名を冠した商品が並んでいるではありませんか。
(恐竜は関係ないけれど『長ねぎスペシャル』もちょっと気になる)。
繰り返すが、プテラノドン、エドモントサウルス、ティラノザウルス……。
具はいったいなにが入っているのだろう。
恐竜の肉ということはさすがにないだろうけれど、爬虫類系のゲームミートは充分ありえる。ワニの肉はうまいと聞いたことがあるし。
僕はあえて正解を聞かずに、店の天井からぶらさがってこっちを見ている翼竜「プテラノドン」を注文した。
まず驚いたのは、店主さんがわざわざ座敷へ来て、目の前で焼いてくれること。
可動式オープンキッチン!
ご主人自らお座敷にやってきて目の前で調理してくれる。
目の前でマヨネーズのシャワーが、古代の降雨期のようにふりそそぐ。
爽快な感動をおぼえた。
ただ予想に反し、爬虫類の肉ではなかった。
そういう「おもしろお好み焼き」ではなかった。
これには、がっかり4、ほっとしたのが6。
では「プテラノドン」とは、なんだったのか。
プテラノドンは、まず豚ロースにお好み焼きの生地をまとわせ、次いで溶き卵を鉄板に流しこみ、薄い玉子焼きをつくる。
そこにマスタードを塗った豚肉を乗せて巻いてゆく。
焼きあがったら、ソースとケチャップ、かつお節、マヨネーズをかけて完成。
ズバリ、いわゆる「とん平焼き」。
あのう、プテラノドンは? 翼竜は? いま私の願い事がかなうならば、翼をください!
「プテラノドンと名づけた理由? 忘れちゃったんですよね。うーん、豚肉とたまごで、飛び上るほど栄養がつくから、だったかな?」
とのことだった。
どうやら命名の理由、特にないようだ。
とはいえ、絵やオブジェや、さらに食べ物にまで恐竜で尽くすとは、なんたるこだわり。
これらはどなたかアーティストさんの作品なのでしょうか?
「いやいや、どれも私が描いたり、造ったりしたものです。美術の心得? ないない、そんなの。絵なんて描いたことなかったですよ」
ご自身で?
しかも絵画や造形の心得もなしに?
ということは、よっぽど恐竜がお好きなんですね。
「恐竜? ぜんぜん興味ないんですよ」
え? え? なんて?(死語)。
というわけで、不思議に思った僕はご主人に5分間だけ仕事の手を止めていただき、インタビュー時間をもらった。
ご主人、いいお顔をされています。
そしてお話を訊けば、こういうことだった。
ここ「お好み焼き 110(イトウ)」はご主人の伊藤保さん(62歳)が平成3年にオープンしたお店。
オープンした頃は、いかにも下町風な、されどごく一般的なお好み焼屋さんだった。
が、開店10年後に「ジュラシック・パーク」がブームとなり、「子どもたちに喜んでもらいたいから」と、それまでまったく興味がなかった恐竜の絵をいきなり壁に描きはじめたのだそう。
そして絵だけではなく、ワイヤーと紙で張り子の作品をつくり、ロープで上下するからくりを考案。
さらに厨房にマイクを取りつけ、店の死角にスピーカーを仕込んで恐竜が話をしたりといったドッキリ要素をふんだんに採り入れた、とのこと。
恐竜のアクションは、天井裏に這わせたワイヤーを、自ら厨房の奥にある「紐」で操作している。
ここはオール手動のハンドメイドテーマパークだったのだ。
なんて素敵なUSA!(ユニバーサル・スタジオ・アラカワ)。
「あなた、京都から来たの? まあ、遠くから……。だったら普通はこの時間はやんないんだけど、ショーを見せてあげますよ」
と、部屋を真っ暗にし、恐竜たちが乱舞するパニック・サスペンス(ご主人のDJつき!)を見せてくださった。
急降下! 喋る! 光る!
下町のお好み焼き屋がジュラシック・ライドに変身!
動画も撮ったけど失敗!
恐竜たちが動きながら話す仕掛けだけでもすごいのに、まさか光るとは!
それはまさに「鉄板」と呼ぶべき、スマートで完璧なショー。
下町にジュラシック・パークを再現したダイナソー・シニアのサービス精神に心から感動した。
確かに「ここに来れば、幸せになれる!」。
ご主人の伊藤さんはしきりに「アートを学んだ経験はない」「恐竜に興味はない」とおっしゃっていたが、ジュラシック・パークで恐竜たちの咆哮を聴いた瞬間に、土壁に絵を描いていた原始時代の記憶が蘇ったのではないだろうか。
そんなふうに考えながら店を出ると、陽はとっぷり暮れ、入った時には気がつかなかった金網でできた恐竜が点灯していた。
エンディングまで見逃せない江戸の粋なおもてなしに感涙。
夜になると、さらに恐竜たちの姿が浮かびあがってくる。
東京の下町で出会ったジュラシック・ワールド。
昭和レトロを通り越し、ここは古代にまで時間がさかのぼっていたのだ。
店名●110 (イトウ)
住所●東京都荒川区東尾久3-24-1
TEL●03-3810-8790
営業時間●15:00~22:00
定休日●月曜(月曜日が祝日の場合は翌日火曜日)
取材・撮影:吉村智樹(よしむら・ともき)
京都在住の放送作家。
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